One Trick Pony

No Trick Man

内に潜む獣

いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌。

違う、こいつじゃない。

その名は"ティルト"。
ありとあらゆるものを破壊し尽くすもの。

様々な対戦ゲームをやったり見てきたりしている人には、馴染みのある言葉だろう。

元々はポーカー用語で、「プレイヤーが合理的な判断ができなくなり、感情にかられた行動をとるようになったしまった状態」のことを指す。

あなたは間違いなくどこかでこのティルトというものを経験しているはず。故に、ティルトに陥った状態でゲームはプレイするべきではないと、頭ではわかっているはずだ。

だが、それを完全にコントロールできている人間は非常に少ない。


あなたは今日のランキング戦をはじめたばかりだ。
あなたは最近増えてきた無色アグロをメタった紫コントロールを使っている。

一戦目。相手は青単ラケシス。
最初から不利マッチを引いてしまったため負けてしまった。しかも対策にとってあるグリーンミミックが引けなかった。
仕方ない。こういうこともある。

二戦目。相手は黄単ミッド。
またもや不利マッチ。こちらは対策が可能なラケと違い、純粋に不利マッチだったので負けるのも仕方ない。
早くも2連敗してしまったが、間違いなく環境に無色アグロは増えてきているはずなので、しっかり当たればまだまだ挽回できるはず。

三戦目。相手は無色アグロ。
待っていましたと言わんばかりのカモ。ようやく一戦取れたかというときに限ってデッキが全く回らない大事故。


こうなってしまったとき、あなたは怒りの感情に囚われる。
この怒りがあなたに与える影響は様々。

例えば、「今日の引きは最悪だったから次は自分に都合の良いものが来るはず!」だとか
逆に、「今日の引きは悪いから後手で全マリしないと1マナが引けないよ...」だったり
まともな精神状態なら、相手のフォースをしっかり確認して、このフォースが相手なら相手のデッキはこれが予想されるから、これはキープしたい...等と考えられているはずが、もはや自分の手札しか見ていない。なんてこともあり得る。

アグレッシブになるかパッシブになるかは人それぞれだが、ティルトに陥ったプレイヤーは大抵このような心理状態になる。

万人が口にするティルトといえば、これという良くある例だと思う。
だが、これがティルトの全てだとすれば、わざわざ新しい言葉を作らなくともメンタルブレイクで十分だろう。

ティルトはこれだけにとどまらない。
これが「負の感情」から生まれるティルトだとすると、「正の感情」から生まれるティルトも存在する。
最も厄介なのは、この「正の感情」から生まれるティルトだ。

「負の感情」つまり怒りから生まれるティルトだったが、「正の感情」は幸運から生まれるティルトだ。

幸運の何がダメなのかピンと来ない人には宝くじで例えると分かりやすいかもしれない。
その日暮らしで生きてきた人間が唐突に何億もの大金を手に入れると、今までと同じ思考ではいられない。
高額当選者の約7割が破産しているなんて話も聞くくらいだ。それはその人だけの問題ではないかもしれないが、間違いなく幸運というものは、簡単に人を馬鹿に変える。


無色アグロを使っているあなたは、今日ノリにノっていて、ランキング戦で後手を引いた全ての試合でポリン,ハヤテ,ツインのセットを引けている。
今はそのランキング戦も9-0して最後の一戦。後手だ。
初手にツインも1マナもいないが、ハヤテはいる。
今日はめちゃくちゃツいているからツインと1マナは引けるだろうし、ハヤテ以外はマリガンでもいいだろうか。

違う。

出来事は全て独立していて、それまでの運の良さや悪さは今現在のあなたの意思決定に影響を与えるべきではない。

麻雀をやったことのある人なんかは"流れ"といえば馴染みがあるかもしれない。
確かに時として幸運や不運が続くことがある。だが、それは決して永遠に続くものではないし、間違いなく数をこなせばプラマイゼロに収束する。

この幸運のティルトは残酷なもので、ここで更に成功体験を与えてしまうと、回答を誤認させたままにして、人を馬鹿に変えてしまう。
一度成功体験を得て、擦り込んでしまった誤答というものはそう簡単に変えられるものではない。
周りの人間はいうだろう。このマッチではこのカードが鍵だからキープすべきだ。
だが、あなたは自分が得た体験という人の言葉よりも信頼性の高い誤答を持ってしまっているので、その言葉に耳をかせなくなる。

また1人、ティルトで人が壊れた。

このようなティルトに陥らないためには、とにかく明確なプランニングを確立することだ。
明確なプランニングが出来ていれば、それをただ実行するのみ。それが正しいプランであるかも数をこなせば結果として見えてくるので、明確な根拠ができる。根拠があれば自信がつく。自信がつくと負けてもフラストレーションがたまりにくい。

他にも方法はある、心にケイスケホンダを飼うことだ。
負けても、やるやん。と常に上から目線。
ただし、常に自分が巧者であると思っていると学ぼうともしなくなるので、やはり前者の方法が良いだろう。

一歩一歩の成長こそが、一夜漬けの付け焼き刃を上回るということを自覚する。
ゼノンザードのようなカードゲームは実力だけで全てが決まるわけではない。だからこそ、思うようにいかない場面も出てくる。
そこで、しっかりとした自信の土台が出来ていれば多少の下ブレ程度では何も感じない強いメンタルを手に入れられる。

あなたが戦う相手は決してティルトしないAIだ。
怒る人間は冷静な相手に決して勝てない。漫画やアニメでそのような光景を幾度となく見てきただろう。

自分のスキルを理解して、ティルトの兆候に気づけたとき、ティルトはあなたをコントロールしなくなる。
5連続で全マリして色マナを引かない大事故に遭うまではね。

元記事

Your Inner Monster
https://www.channelfireball.com/home/your-inner-monster/